以下のリンク先ページでふるさと納税の自己負担金が 2,000円になっていることを確認する式を示しました。本ページではその式の導出方法を説明します。なお、まだリンク先をお読みでない場合は、先にそちらをご確認ください。
はじめに
上のリンク先ページでは、決定通知書に2箇所ある「税額控除前所得割額」の合計と所得税率を使えば、自己負担金がちょうど 2,000円となるふるさと納税金額が以下の式で求まると述べました。
$$ 2,000 + \frac{税額控除前所得割額の合計 \times 0.2}{0.9 – \frac{所得税率}{100} \times 1.021 \quad} \tag{1} $$
(注)この式は「ふるさと納税した結果税率が下がった場合」と「端数の処理」が正確には考えられていません。 しかし、殆ど無視できますので、そこまで考慮した計算式はまた時間があれば掲載したいと思います。
また、税金が正しく減額されているか決定通知書から確認する方法として、以下の式が満たされていることとしました。ここでは、決定通知書に2箇所ある「税額控除額」の合計と所得税率、住民税率を用いています。住民税率は多くの自治体で10%です。
ワンストップ特例を利用している場合
$$ 税額控除額の合計 \geq 2,000 + \frac{税額控除前所得割額の合計 \times 0.2}{0.9 – \frac{所得税率}{100} \times 1.021 \quad} \tag{2} $$
確定申告している場合
$$
\begin{eqnarray*}
税額控除額の合計 \hspace{15cm} \\
\geq (ふるさと納税額 – 2,000円)\times (0.9 – \frac{所得税率}{100} \times 1.021 + \frac{住民税率}{100}) \tag{3}
\end{eqnarray*}
$$
以下で、これらの式の導出方法を解説していきます。
計算の根拠
まず、ふるさと納税で還付される税金は 1. 所得税の減額分 と 2. 次年の住民税の減額分の合計からなりますので、それぞれ確認していきましょう。
所得税の減額分
所得税は確定申告の時に計算の流れを目にすることもあるため、計算方法を理解されている方も多いかと思います。まず、以下のように収入から経費を引き、残った金額を税法上は所得と呼んでいます。
$$ 所得 = 収入 – 経費 \tag{4} $$
この経費はサラリーマンの場合、給与所得控除と呼ばれますし、自営業の場合は必要経費になります。式 (4) からさらに支払った医療費や社会保険料等といった金額を引くことができ、所得控除と呼びます。所得控除を引いたものが税額計算の基礎になる課税標準です。
$$ 課税標準 = 所得 – 所得控除 \tag{5} $$
そして、 その課税標準に応じた税率と控除額が以下の表のように決まっています。
課税される所得金額(課税標準) | 税率 | 税額控除 |
195万円以下 | 5% | 0円 |
195万円を超え330万円以下 | 10% | 97,500円 |
330万円を超え 695万円以下 | 20% | 427,500円 |
695万円を超え 900万円以下 | 23% | 636,000円 |
900万円を超え 1,800万円以下 | 33% | 1,536,000円 |
1,800万円を超え4,000万円以下 | 40% | 2,796,000円 |
4,000万円超 | 45% | 4,796,000円 |
これらを用いて、具体的な所得税額の計算式は
$$ 所得税額 = 課税標準 \times \frac{所得税率 \times 1.021 }{100} – 税額控除 \tag{6} $$
となります。ここで所得税率に掛かっている 1.021 という数字と税額控除が新たに出てきました。 まず、1.021倍しているのは 復興特別所得税 によるものです。東日本大震災からの復興財源を確保するため、2037年分まで表にある所得税率を2.1%積み増しすることになっているので、 1.021倍することになります。次に、税額控除は上の表の一番右の列に書かれています。これは税額が所得に対して連続的な関数になるように調整する大切なものなのですが、今回は関係ありませんのでまた別の機会に説明します。なお、医療費や社会保険料などは 式(5) の 所得控除であり、式 (6) の税額控除とは別の概念ですので注意が必要です。
さて、式 (6) に 式 (5) を代入すれば、
$$ 所得税額 = (所得 – 所得控除) \times \frac{所得税率 \times 1.021 }{100} – 税額控除 \tag{7} $$
が得られます。この式から分かるように、所得控除が増えれば \(所得 – 所得控除 \) の値は減るため、所得税額は減ることになります。ですから確定申告では医療費などの経費を忘れずに計算することが必要なわけです。
そして、この所得控除に含めることができる対象の1つに寄付金があるため、自治体に寄付をする ふるさと納税で、所得税額を減らすことができるのです。 寄付金の場合、2,000 円を引いた金額を所得控除として算入することが認められています。いま仮に、式 (7) の段階ではふるさと納税をしておらず、所得控除にふるさと納税を含んでいなかったとしましょう。いま新たに、ふるさと納税をすることにすると、元々の所得控除が \(ふるさと納税額 – 2,000\) 増えることになりますから、その場合の所得税額は
となります。そして、\( 式 (7) – 式(8) \) が、ふるさと納税をした結果減った所得税の額、すなわち減額される所得税額となります。これは計算すれば以下の式になります。
$$
\begin{eqnarray*}
ふるさと納税による所得税減額 &=& 式 (7) – 式(8) \\
&=&(ふるさと納税額 – 2,000円)\times \frac{所得税率 \times 1.021 }{100} \tag{9}
\end{eqnarray*}
$$
所得や所得控除、税額控除が消えて簡単な式になりました。たとえば10万2,000円寄付したとして、あなたの所得税率が20%の場合、20,420円所得税が減ることになります。 あれれ、10万円返ってくるのを期待していたのに2万円と少ししか減りません。これでは残りの8万円近くを支出したことになってしまいます。 実は、この残りが住民税で返ってくるため、そこも考慮する必要があるのです。しかし、意外にも所得税による減額分はそれほど大きくないのですね。
(注)えっ、ふるさと納税をした結果、式 (9) の所得税率が 式 (8) と変わる場合があるのではないかって? それが式 (1) の注にも書いたことです。そんな場合のコーナーケースはまた計算して記事にしたいと思います。
住民税の減額分
住民税は確定申告上の数字に直接的に表れないうえ、サラリーマンの場合は何も申請せずとも給与から自動で天引きされるため、身の回りでも計算方法を理解している方は少ないように感じます。しかし、住民税も所得税と同様に収入から経費を引いてさらに所得控除をした額に課税が行われ、その計算方法は非常に似ています。ただし、均等割と所得割という独特の概念があるので、まずそこから説明したいと思います。
住民税通常分による減額
まず、均等割ですが、これは一定以上の収入がある人全員に同じ額が課税されるものです。みんなで税を負担し合うので均等割という名前になっているのですね。 自治体ごとに金額は異なり、5,000円~6,200円程度の金額が設定されているようです。しかし、所得に関わらず同じ額課税されるのですから、ふるさと納税しても減額されることはありません。よって、均等割はふるさと納税の限度額を計算する場合には無視することができます。
所得割は所得の金額に応じて決まる金額で、所得税と同じ考え方です。所得が多い人ほど負担を増やすという考えなので、所得割という名前です。ただし、所得税率は所得が多くなるにつれて税率が上がっていく累進課税であるのに対し、所得税率は所得に関わらず一律 10% (うち都道府県民税が4%、市町村民税が6%)が原則となります。殆どの自治体で税率は 10% なのですが、ごく一部の自治体で増税されていたり減税されていたりします。例えば、夕張市は 10.5% で、名古屋市は 9.7% です。
さて、所得割額の計算式は所得税の式 (7) と殆ど同じです。
$$ 住民税所得割額 = (所得 – 所得控除) \times \frac{住民税率}{100} – 税額控除 \tag{10} $$
所得控除の計算は所得税と一部異なるのですが、所得税の場合と同様に後々の計算で消えてしまうので考慮しません。住民税でも所得税の場合と同様に寄付金額から 2,000円を引いた額を所得控除として算入することが認められています。所得税の場合と同様に、式 (10) の段階では所得控除にふるさと納税額を含んでいなかったとすれば、新たにふるさと納税をした場合、所得割は以下のとおりになります。
$$
ふるさと納税した場合の住民税所得割額 \hspace{11cm} \\
= (所得 – 所得控除) \times \frac{住民税率}{100} – (ふるさと納税額 – 2,000) \times 0.1 – 税額控除
\tag{11}
$$
おっと。\(ふるさと納税額 – 2,000 \) に住民税率でなく 0.1 (10%) が掛かっています。先ほど、住民税率が自治体によって違うと書きましたが、その違いに関わらず寄付金については常に10%で控除されるのです。なんとややこしい。しかし、所得税の時と同様に \( 式(10) – 式(11) \) を計算してしまえば、
$$
\begin{eqnarray*}
ふるさと納税による住民税所得割の減額分 &=& 式 (10) – 式(11) \\
&=&(ふるさと納税額 – 2,000円)\times 0.1 \tag{12}
\end{eqnarray*}
$$
となります。色々なものが消えて、ふるさと納税額だけの式になりました。これまでの例と同じように 10万2,000円寄付したとすれば、1万円が戻ってくることになります。あれれ、所得税で戻ってきた20,420円と合わせてもまだまだ足りません。実は、住民税には特例分というものがあり、そちらの金額が最も大きいのです。
住民税特例分による減額
住民税の控除には特例があり、ふるさと納税に限って以下の式で表現される金額がさらに住民税から減額されます。
$$ 住民税特例分による減額 \hspace{12cm} \\
= (ふるさと納税額-2,000円) \times (1 – \frac{所得税率}{100} \times 1.021 – 0.1) \tag{13} $$
たとえば、所得税率を20%とすれば、右側の括弧の中は 69.58% となります。今までの例のとおり 102,000円寄付した場合、2,000円引いた10万円の 69.58% は、69,580円です。さて、所得税で返ってきた金額が 20,420円、住民税で返ってきた金額が1万円であったことを思い出してください。\( 69,580 + 20,420 + 10,000 = 100,000 \) となります。おお、合計するとぴったり10万円になりました!
実のところ、住民税の特例分はふるさと納税のためにある制度です。所得税と住民税所得割を減額しても、ふるさと納税額のごく一部しか戻ってきませんでした。特例分はふるさと納税の自己負担金が2,000円となるように式 (13) の右側の括弧内が設計されているのです。そんなことして良いのか不思議な話ですが、そもそもふるさと納税は自治体に対する寄付です。よって、寄付した分は住民税から引いてしまっても違和感はないだろう、ということです。
自己負担金が 2,000円 となるふるさと納税額上限の計算
さて、これでようやくふるさと納税をすると減額される金額を計算する式が全て出そろいました。 再掲すると以下のとおりです。
所得税減額分(総所得金額等の40%まで)
$$ (ふるさと納税額 – 2,000円)\times \frac{所得税率 \times 1.021 }{100} \tag{9} $$
住民税所得割の減額分(総所得金額等の30%まで)
$$(ふるさと納税額 – 2,000円)\times \frac{住民税率}{100} \tag{12} $$
住民税特例分による減額分(税額控除前所得割額合計の20%まで)
$$ (ふるさと納税額-2,000円) \times (1 – \frac{所得税率}{100} \times 1.021 – 0.1) \tag{13} $$
これらの合計が還付される金額ということになります。さてさて、本当に足した金額が戻ってくるなら、ふるさと納税をどんどんすれば、返礼品を貰いながら、いくらでもお金が返ってくることになってしまいます。実際には、これら減額には条件がもうけられており、上記に太字で示しました。
所得税と住民税所得割に関しては総所得金額の割合で制限が設けられています。仮に500万円の所得があったとすると、所得税の制限である40%は200万円で、所得割の制限である30%は150万円です。所得割は住民税10%として計算すると50万円ですので、所得割の20%は10万円です。よって、10万円を超えて寄付した分には、所得税と所得割の減額しか受けられません。その場合、返ってくるのはざっくりとふるさと納税額の3割程度ですので、7割程支払うことになるでしょうか。返礼品の原則は納税額の3割ですので、まぁ、この場合は自分で買うより大分損ということになってしまいます。このことから、住民税特例分による減額分の上限を超えないようにふるさと納税すれば良いので、以下の式が得られます。
$$
\begin{eqnarray*}
(ふるさと納税額-2,000円) \times (1 – \frac{所得税率}{100} \times 1.021 – 0.1) \hspace{5cm} \\
\leq 税額控除前所得割額合計 \times 0.2 \tag{14}
\end{eqnarray*}
$$
式(14) でふるさと納税が左辺となるように変形すれば、(1) 式が得られます。
$$ ふるさと納税額 \leq 2,000 + \frac{税額控除前所得割額の合計 \times 0.2}{0.9 – \frac{所得税率}{100} \times 1.021 \quad} \tag{1′} $$
さて、あとは税金が引かれているか確認する式 (2)~(3) ですが、ここまでくれば簡単です。ワンストップ特例を利用している場合は、所得税の減額分相当が住民税から引かれます。よって式(1) の金額が決定通知書の税額控除に含まれているはずですので、以下の式(2)が得られます(再掲)
ワンストップ特例を利用している場合
$$ 税額控除額の合計 \geq 2,000 + \frac{税額控除前所得割額の合計 \times 0.2}{0.9 – \frac{所得税率}{100} \times 1.021 \quad} \tag{2} $$
そして、確定申告している場合は、式(12)と式(13) のみが住民税から引かれるので、式(12) + 式(13) の金額が決定通知書の税額控除に含まれているはずで、以下の式(3) が得られます(再掲)
確定申告している場合
$$
\begin{eqnarray*}
税額控除額の合計 \hspace{15cm} \\
\geq (ふるさと納税額 – 2,000円)\times (0.9 – \frac{所得税率}{100} \times 1.021 + \frac{住民税率}{100}) \tag{3}
\end{eqnarray*}
$$
確定申告している場合、厳密には所得税還付の確認も必要ですが、住民税側で正しく引かれているなら確定申告のデータも正しく入力されているだろうと推測できます。よって、あえて確定申告書を引っ張りだしてこなくとも住民税決定通知書のみでふるさと納税については確認をすることができます。
おわりに
このページでは別のページで説明した、ふるさと納税の自己負担金が 2,000円になっていることを確認する式の導出方法を説明しました。これらの計算方法は前年のふるさと納税の結果を確認するものですが、この導出方法を理解しておけば、今年のふるさと納税額を正確に見積もり時にも使えるかと思います。ぜひ、ご活用ください。