オイルヒーターがエアコンより乾燥しないって本当?

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エアコンは乾燥するのでオイルヒーターを使ってみたいという方、結構いらっしゃるのではないでしょうか。このページではオイルヒーターは本当に乾燥しないのか考えてみたいと思います。

はじめに

オイルヒーターは、中が空洞の金属でできており、中にはオイルが満たされています。このオイルを電気ヒーターで暖めて金属の温度を上昇させると、金属周辺の空気が暖まります。暖まった空気は上昇するので、部屋の中で自然対流が生じて部屋全体が暖まる仕組みです。エアコンのように、強い風を出さないのが特徴です。

一方でエアコンは、冷媒ガスが詰まった金属チューブで室内にある本体と室外機が繋がっています。室外機は断熱圧縮という方法で外気から熱を取り出してガスを暖め、ポンプで室内の本体に送ります。すると、本体内の金属チューブにつながっている沢山の薄い金属フィンが暖まります。そして、ファンが回転して、フィンの間に部屋の空気を通すことで暖めます。ファンを使って風を出すことが、オイルヒーターとの大きな違いです。

時々、エアコンよりもオイルヒーターは乾燥しない、という売り文句を聞くことがあります。暖め方が電気ヒーターか断熱圧縮かという差はあるものの、結局は金属を介して空気を暖める仕組みなので、水分を減少させるところはなさそうです。いったい何故、乾燥しないと言われるようになったのでしょうか。

乾燥すると言ったとき、温度計を見て湿度が低いと判断した場合と、体感的に湿度が低いと感じた場合が考えられます。この二つに分けて考えたいと思います。

室温と湿度計の表示

ご存知のとおり、部屋の空気には水が気体として含まれていて、これを水蒸気と呼んでいます。空気に含まれている水蒸気の量は、重さよりもその水蒸気の圧力で表現することが多く、これを水蒸気圧と呼びます。この時、窒素や二酸化炭素などその他の気体は無視して考えて大きな問題はありません。

空気が含むことができる水蒸気量には限界があり、この限界の時の水蒸気圧を飽和水蒸気圧と呼びます。分野によっては飽和蒸気圧のことを単に蒸気圧ということもあるようですが、ここでは区別するために、水蒸気圧は現在空気に含まれる水蒸気の圧力(分圧)とします。

湿度の定義には色々あるのですが、家庭用のデジタル温度計で表示されているのは相対湿度と呼ばれます。これは、現在の温度の飽和水蒸気量に対する水蒸気圧の割合です。すなわち、 水蒸気圧を \( e \)、飽和水蒸気圧を \( e_s \) とすれば、相対湿度は以下のとおり定義されます。

$$ 相対湿度 = 100 \times \frac{e}{e_s} \tag{1} $$

そして、飽和水蒸気圧は室温(摂氏温度)を \(T\)とすれば以下の式で決まることが知られています。

$$ e_s =6.1078\times 10^{\frac{7.5T}{T+237.3}}
=6.1078\times 10^{\frac{7.5}{1+\frac{237.3}{T}}} \tag{2} $$

ここでは細かい数字はどうでもよく、変形後の式をみると、室温 \( T \) が大きくなれば10の指数も大きくなることが分かります。なので、室温が高くなれば飽和水蒸気圧 \( e_s \) も大きくなります。よって室温が高いほど沢山の水が気体として存在できることが分かります。

さて、相対湿度の定義である 式 (1) に戻って考えましょう。室温が上がると、\( e_s \) が高くなります。この時に加湿も除湿もしないとすると湿度計の表示はいったいどうなるでしょうか。

いま室温が \( T \) から \( T’ \) に上がったとします。 加湿も除湿もしなければ、空気中の水蒸気の総量は変わりません。理想的な気体の圧力は絶対温度(摂氏温度に273.15 を足したもの)に比例することが知られていますから、水蒸気もそれに従うと考えてよいでしょう。すると、 \( T’ \) での水蒸気圧は \( e \times \frac {T’ + 273.15}{T + 273.15} \) となります。また、飽和水蒸気圧は \( 6.1078 \times 10^{\frac{7.5T’}{T’+237.3}} \) です。よってその時の湿度は

$$ 室温が T’ になった時の相対湿度 = 100 \times \frac{e}{6.1078 \times 10^{\frac{7.5T’}{T’+237.3}}} \times \frac {T’ + 273.15}{T + 273.15} \tag {3} $$

となります。式 (1) に 式(2) を代入したもので式(3) を 割れば、湿度の変化割合が計算できます。

$$ 室温 T から T’ へ変化時の湿度変化 = 10^{\frac{7.5}{1+\frac{237.3}{T}} – \frac{7.5}{1+\frac{237.3}{T’}}} \times \frac {T’ + 273.15}{T + 273.15} \tag {4} $$

となります。\( T’ > T \) とすれば、これは常に 1未満の値を取ることが分かります。よって、加湿も除湿もせずに室温が上がれば湿度表示は下がることになります。

どれくらいの差がでるのか実感が湧かないので、具体的な値で計算してみましょう。今、帰宅したあなたが温湿度計を見ると、室温16度で湿度が40%だったとしましょう。加湿器も除湿機も使わずにエアコンなりオイルヒーターなりを使って23度まで室温を上げました。式 (4) の値は計算すると 0.662885009 です。よって、湿度は \( 40\% \times 0.662885009 = 26.51\% \) です。

なんと、室温16度から23度まで上げただけで、湿度が40%から27% まで下がってしまうのです。

さて、なんだかからくりが見えてきました。ここで、オイルヒーターとエアコンの暖房能力の違いを見てみましょう。いま価格.comでエネルキー効率でソートして一番トップにきた MSZ-FZV4019S の標準暖房能力は消費電力 960W に対して 5.0KW = 5,000W だそうです。一方、オイルヒーターは電気をそのまま熱に変換しますから、消費電力をそのまま暖房効率と考えることができます。仮に 960W のオイルヒーターがあったとすれば、その暖房能力は 960W を超えることはありません。圧倒的な差があります。

余談ですが、なぜエアコンは消費電力よりも大きい暖房能力があるのでしょう? これはエアコンが、断熱圧縮を用いて熱を外気から取り出し、室内に移動するためにエネルギーを使っているからです。えっ? エネルギー保存則が成り立ってないって? 大丈夫。室外機から部屋の外に出て行った冷気を考えてみよう。

つまり、オイルヒーターの暖房能力はエアコンのそれよりもかなり低いことになります。となると、エアコンを使ってある部屋を23度まで暖められたとしても、オイルヒーターでは力不足で暖められない可能性があります。さらにエアコンは風を出すため、部屋全体が満遍なく温まるので、温度計の周辺温度がオイルヒーターの場合よりも高くなる可能性が高くなります。

以上のことから、湿度計をみて下がったな~ と思うのは、単にエアコンが効率良く室温を上げて、表示されている湿度が下がったからでしょう。逆に、オイルヒーターでも部屋を充分に暖めることができるのであれば、同様に湿度は下がることになります。

体感的な乾燥度

さて、湿度計の表示がオイルヒーターの方が低くなる可能性はわかりました。では、感覚的なものはどうでしょうか。これは肌や喉から水分が奪われる速度によると考えられそうです。そして、水が蒸発する速度が速くなれば、肌や喉から水分が奪われる速度も速くなると考えて良いのではないでしょうか。となれば、蒸発速度を考えることになります。

実は、蒸発速度は (1) \( 飽和水蒸気圧 – 水蒸気圧 \) と (2) 風速 の 2つに比例して速まることが知られています。蒸発というのは複雑な物理現象で、本来はこの2つだけで蒸発速度を表現できるものではありません。しかし、おおまかには、この2つに比例するものと考えて差し支えないようです。機会があれば、詳細な議論を追記したいと思います。

さて、先に見てきたとおり、室温が上がるにつれて飽和水蒸気圧と水蒸気圧も上がるのですが、その上昇速度は、飽和水蒸気圧の方が水蒸気圧よりも早いです。よって、加湿も除湿もせずに室温をあげると、\( 飽和水蒸気圧 – 水蒸気圧 \) の値はどんどん大きくなっていきます。よって水分蒸発も早くなります。また風速ですが、エアコンは風を出し、オイルヒーターは風を出さないので、明らかにエアコンの方が水分蒸発が早くなることが分かります。

以上のことから、エアコンは効率よく室温を上げることができるのですが、風も出すため体感的にはオイルヒーターより乾燥するように感じる可能性があります。オイルヒーターは暖房能力がエアコンよりも低いため、部屋を充分に暖められない可能性があります。その一方で、エアコンよりも室温が低く保たれ、風もださないため、乾燥を感じにくい可能性があります。

じゃあどうするの

加湿せずに室温を上げると湿度が下がり、その結果、肌から水分が奪われる速度が速まるのは避けられません。やはり、加湿器を購入するか、加湿機能付きのエアコンを購入するしかないでしょう。

ひとつ、以下のサイトに面白い実験がありました。石油ストーブをつかうとエアコンよりも乾燥しないというものです。石油が燃焼する時の反応で水が生成されるので、加湿されているとしています。発生する水分量を評価しなければ分かりませんが、あり得そうな話です。

第20回:エアコン暖房ってホントに石油ファンヒーターより乾燥するの?
冬も本格化した今、気になるのは暖房した部屋の湿度。暖房を入れると部屋が乾燥して、ノドが乾くだけならまだいい。乾燥した室内は、インフルエンザウィルスにとって天国で繁殖し放題だ。乾燥でノドや鼻の粘膜が弱っているところに、インフルエンザウィルスが入り込めば、病院のお世話になることは確実だろう。

石油ストーブは一酸化炭素中毒の危険から定期的に換気をしなければなりません。燃焼ガスを外気に排出するタイプの石油ヒーターもありますが、それでは、上記のような効果は得られないと考えられます。乾燥しないからという理由で、室内燃焼型の石油ストーブを買うのはなかなか難しいと思いますが、覚えておいてもよい、興味深い結論だと思います。

おわりに

エアコンは効率よく室内を暖めるのでよりオイルヒーターよりも湿度が下がってしまう可能性があります。さらにエアコンは風を出すので、水分蒸発がより速まる可能性があります。オイルヒーターはエアコンのように暖房能力が高くないので、室温が低くたもたれ、エアコンよりも相対的に湿度が低くなる可能性があります。また、風を出さないので、水分蒸発もエアコンよりは少なくなります。

正直なところ電気代を考えると、オイルヒーターはかなり効率が悪いと言えます。しかし、ゆっくり温度が上昇することで心地よく過ごせる、というのは確かにその通りだと思います。実は私も夜寝るときに使っています。

しかし、乾燥しないという売り文句は誤解を招く可能性があり、きちんとした説明が必要と思います。この「乾燥しない」は「室内に大きな風を生じないので水分蒸発が遅くなる」というのと、「暖房能力がそれほど高くないので、室温が低く保たれ、結果として相対湿度が下がりにくい」という2点であることを理解しておく必要があるでしょう。

プロフィール
海辺の町に住む人

とある分野で博士を取りました。もう研究はしてないので、なら論文引用じゃなくてPV集めるのも一考であるとブログを始めてみました。PV重視なので、たぶん自分の専門分野は余り記事にしないことになると思います。自分の専門でない分野であっても、時には論文や特許も参照しながら詳しい内容の記事を執筆できるよう努力していきます。

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